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vol.16
首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻教授
首都大学東京都市教養学部経営学系教授
松田 千恵子
日本長期信用銀行にて国際審査、海外営業等を担当後、ムーディーズジャパン格付アナリストを経て、経営戦略コンサルティング会社であるコーポレイトディレクション、ブーズ・アレン・ハミルトンでパートナーを務める。2011年より現職。事業会社や公的機関にて社外役員、経営委員等を務めている。東京外国語大学外国語学部卒業。仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士。筑波大学大学院企業科学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。主な著書に『グループ経営入門 第3版』(税務経理協会、2016年)、『コーポレート・ファイナンス実務の教科書』(日本実業出版社、2016年)、『これならわかるコーポレートガバナンスの教科書』(日経BP社、2015年)等。
「競争力強化としてのダイバーシティ確保」
ダイバーシティ(多様性)の確保が言われて久しい。しかし、未だにこれを「社会的責任」や「福利厚生」の一環としての取組、或いは「女性活躍推進」活動のことであると捉えている向きは多い。建前上そうは言わなくても、本音にはそれが見え隠れする。そうでなければ、企業の「ダイバーシティ推進部長」にこれほど女性が多いわけがない。人事は雄弁である。女性のことは女性にやらせておけ、どうせ綺麗ごとだ――こうした「本音」を如実に示す。だが、このような理解に甘んじる企業の前途は甚だ暗いだろう。多様性の確保はジェンダー論でも民族論でもない。企業の競争力強化に直結する問題である。大量生産・大量消費の時代には、多様性は効率を阻害する要因であった。効率よく同じモノを作るための「労働生産性」を上げるには、労働力はなるべく均質なほうが管理しやすい。
しかし、今は事情が異なる。同じモノを大量に作っても消費者は見向きもしない。重要なのは、様々なアイデアを次々と生み出す「情報生産性」だ。違うことを考える多様な頭脳が沢山あることこそが競争力の源泉となる。均質な人材が単一思考しかできない組織はもっとも脆弱であるといっても過言ではない。
多様な頭脳、異なる経験や知見の集積が企業の未来を拓いていくならば、その"多様さ"にはバラエティがあるほど良い。日本企業で意外に見落とされがちな「多様性人材」は、実は"中途採用者"だ。未だ終身雇用の残滓が残る日本社会では、他社で働いた経験、ソトで得た知見を持つ人材は貴重である。それにもかかわらず、中途採用者を"敬して遠ざける"事例のいかに多いことか。均質な人材ばかり集めてイノベーションが起こらないと嘆く前に、多様性が競争力に直結する現実を直視した対応が必要ではなかろうか。