TOPページ > エンパワーメント・フォーラム2017 > 開催レポート2017

開催レポート

分科会A男性中心職場での女性活躍または女性技術者の活躍支援の取組

 分科会2では「男性中心職場での女性活躍、または女性技術者の活躍支援の取り組み」をテーマにディスカッションが行われた。
 登壇者は、受賞組織の中から、北陸電力株式会社の金山奈里氏(人事労務部プログレス推進チーム)、オリックス・レンテック株式会社の松野城太郎氏(執行役員技術本部長)、ダイキンエアテクノ株式会社の小林智彦氏(取締役ファシリティ本部長兼CS推進室長)の3氏。コーディネーターはワーキングウーマン・パワーアップ会議推進委員の小林洋子氏(NTTコミュニケーションズ株式会社常勤監査役)が務めた。

小林洋 男性中心の職場の中で、どう女性が活躍していくか、そして圧倒的に少ない女性技術者の活躍をどう支援していくかについて、それぞれの取り組みについてお伺いしたい。

オリックス・レンテックの取り組み/アンドロイドに女性の感性を

松野 当社は、プロ野球でお馴染みのオリックスのグループ会社で、精密機械である計測器やIT関連機器のレンタルを柱としてさまざまなサービスを提供している企業だ。現在、3万2000種類、約164万台の機器を保有しており業界No.1を誇る。
 品質管理した精密機器をお客さまへ貸し出すため、必ず必要となる動作確認などのノウハウを生かして、今、力を入れているのがロボットや3Dプリンター事業だ。そして、これらの事業でもっと女性エンジニアが活躍できるのではないかと考えている。
 ただ、一人の人が全部のセットアップを行うと、単調になってしまうし、本人自身も不安があると思う。そこで、注目したのが、化粧品会社のセールスや服飾関係の仕事の経験がある社員やパートタイマーの女性たちだ。現在、そういった人たちに手を挙げてもらい、女性技術者と組んでタスクフォースとしてアンドロイドの運用に携わってもらっている。
 また、当社では、安全柵を必要とせず、人間の隣で働く次世代ロボット(協働ロボット)のレンタル事業にも取り組んでいる。協働ロボットで一番イメージしやすいのは、工場のラインでパートタイマーの方々と一緒に作業するロボットであろう。この協働ロボットを取り扱う上でも、やはり女性の目線が大事になる。なぜならラインにいるパートタイマーの方々は女性が多くを占めているからである。
 女性ならではの手際の良さを生かした現場では、協働ロボットにもそれに合わせたスピーディな動きをプログラミングする必要がある。あるいは、女性ならではの細やかさを生かした作業をしている現場では、ロボットの動きもその細やかさに合わせて少し抑えたテンポに調整した方が良い場合もある。また、男性とは身長差があるので、女性が作業をしやすい高さに合わせた設定を行うことも求められるだろう。
 そのため、女性エンジニアは今後より一層、実際に現場に行ってロボットを設置したり、現場の作業に直に触れる中で学んでいったりするテクニカルな仕事が求められると思っている。

ダイキンエアテクノの取り組み/改革に役割を果たす「エンジ女子会」

小林智 ダイキングループの中でも、当社は国内最大規模の100%出資の子会社で、空調機の販売、設計・工事、アフターメンテナンスまでを一貫して手掛けており、一般建設業という男性社会のイメージが強く残る企業である。当社の成り立ちは、1947年に四国の小さな設備会社からスタートし、統合に統合を重ねて発展してきた。それだけに企業の文化・風土、働いている人の考え方が大きく異なり、その枠を超えた仕事の仕方がまだ浸透していないところがある。
 また、昨今は男性技術者にとらわれていると採用もままならず、既存従業員の活躍が重要になってきている。当社のダイバーシティ推進の取り組みは、男女に関係なく、全従業員が働きがいを感じながら活躍できる職場を目指したものといえる。
 具体的には、まず、女性の働き方を支える制度として、ライフイベントに関係なくキャリアアップが図れるよう、半日単位の有休取得の拡大や時差勤務、短時間勤務の適用期間の延長など、柔軟な働き方が選択できるよう制度改定を進めてきた。育休中の早期復職には、昨年度から会社の一部負担で、保育者の自宅派遣や保育所入所のサポートを実施した。また、一般職の従業員の仕事に対するやりがいや働きがいを高めるため、一般職から総合職への転換制度も導入した。
 また、女性の優れた能力を現場で発揮できるように、設計部門所属の数名の女性技術者が「エンジ女子会」と銘打った取り組みを始めた。自らの課題解決だけでなく、業務効率化による生産性の向上や、難度の高い技術への挑戦などに、自らの意思で取り組んでいる。さらに女性技術者だけにとどまらず新しい働き方への挑戦ということで、全国の支店で活発な女性委員会活動が進んでおり、男性の意識改革や上司の理解が少しずつ進み始めている。
 最後に、2014年度から現場への挑戦として、男女に関係なく全新入社員を工事グループに配属とし、現場経験をするようにしている。これにより現場への意識の高まりや、女性が現場で働く上での課題などが見えてきた。さらに「エンジ女子会」にも参画してもらい、課題の解決につなげている。

北陸電力の取り組み/男女とも働きやすい職場づくりへ転換

金山 電力会社である当社は、技術部門で働く従業員が全体の7割を占める、男性色の強い会社である。そうした中で女性の職域を拡大し、例えば発電所での運転業務や巡視点検、電柱に昇っての停電復旧作業などにも女性が進出している。
 女性が活躍できる職場づくりへの本格的な取り組みは、2014年10月の女性ワーキンググループの発足からである。人事労務部が女性20人を指名し、同年12月にはトップ提言を行った。2015年度を女性活躍元年と位置付け、ダイバーシティやワークライフバランスを推進し、従業員に占める女性比率が低い中で、2020年を目途に女性役職者数70人を目指している(2016年7月現在35人)。
 具体的な取り組みでは、女性ワーキンググループの提言により、2015年4月に専任組織「プログレス推進チーム」と「プログレス推進連絡会」を設置。女性ワーキンググループが提言した「意識改革・コミュニケーションの充実」「ワークライフバランスの浸透」「女性のキャリア育成」の三つの柱からなる18施策を精力的に実施してきた。
 まず、「意識改革・コミュニケーションの充実」では、トップから女性活躍推進を経営戦略の柱とすることをあらゆる場面で発信してもらった。現場に役員が出向いて女性従業員との座談会を行ったり、役職者向けの講演会なども実施している。 次に、「ワークライフバランスの浸透」では、各職場で総実労働時間と休暇取得日数の目標を設定し、時短に取り組んでいる。2015年7月からはフレックスタイム制度もコアタイムを廃止し、より柔軟な働き方を目指している。
 また、「女性のキャリア育成」では、女性リーダーを対象としたビジネススキルアップ研修とセットで、女性リーダーの上司を対象とした女性部下育成研修を実施している。また、役職の経験が浅い女性の不安を払拭し、自信を持ってリーダーシップを発揮してもらうためメンタープログラムも始めた。
 さらに、女性活躍を進めようとしている、地元企業とのダイバーシティ推進のための交流会も発足させている。 2015年の取り組みはダイバーシティの中でも女性に特化していたが、2016年は男女とも一人ひとりが能力を発揮できる職場づくりに少しずつ方向転換していきた。
 成果は、女性役職者の増加に加え、男性の家事・育児参加を促進したことで、育児休業や配偶者出産休暇を取得する男性が増えてきた。今後はさらに男女とも働きやすい職場づくりに取り組んでいきたいと考えている。

他企業との交流会はよい刺激に

小林洋 それぞれの取り組みで、特に苦労した点や、成果につながったポイントについてお聞きしたい。
松野 女性だけに焦点を当てるだけでは不十分だと認識している。ロボットにしろ、3Dプリンターにしろ、もっと女性に活躍してもらいたいと思っている一方、思い切って若い世代の男性にも任せてみるようにもしている。女性が気軽に相談でき、意見を言いやすい環境を作ることで、チームワークを高めることができると思っている。
小林智 最大の苦労は、やはり取り組みの目的を伝え、理解してもらうことである。トップはダイバーシティ経営の推進を発信しているが、統合を繰り返してきた当社の場合、各支店に統合前の風土があったため、いかに全国的な意思統一を図っていくかが課題であった。ただ、最近は各支店からもプロジェクトに参画してもらい一緒になって考え、取り組みを後押ししてくれるようになってきているので、ここからはスピードが上がっていくものと考えている。
金山 地元企業との交流会では、初めてのことで発足に向けた調整などに苦労があった。地元企業2社に声掛けをし、北陸、富山を盛り上げようと異業種交流会の名前を付けたり、参加者の選定では、まずは女性役職者を対象にすることにした。今後は性別・年齢を問わず、各社のダイバーシティ推進に関する課題を持ち寄って、半期に一回程度、実施したいと考えている。参加企業も増やしていきたい。
 企業の女性活躍に対する温度差は様々である。そうした中で、他社と合同で取り組むとなれば会社の上層部も動かざるを得ず、ダイバーシティ推進の相乗効果が期待できる。また、女性が少なく、ロールモデルも少ない当社の場合、頑張っている他社の女性管理職との交流は、自信やモチベーションの向上などよい刺激にもなった。

対外的な活動で女性の活躍領域が拡大

小林洋 次に、女性の活躍によって、組織の生産性や社内の変革に及ぼした影響について伺いたい。
小林智 生産性の面では、「エンジ女子会」で取り組んだ結果、1人当たりの積算金額が、2014年度の7.9億円から2015年度には9.1億円と大きく向上した。また、従来、男性が行っていた省エネセミナーなどにおいても、技術職の女性が壇上で説明するなど、社外に向けた活動でも活躍するようになってきている。
 社内風土の改革では、課題のコミュニケーション不足も、社内報の制作や全社横断のプロジェクトの開催等を通じてメンバー間の交流が活発になってきたことが大きな成果と考えている。
金山 技術部門が7割を占める当社は、そこでの女性比率は1.5%に過ぎず、まだまだ女性リーダーは少ない状況である。 昨年度から同業他社との交流も始めているが、技術部門における女性の力が求められていることを実感している。自社だけではなかなか見えないところが、他社との交流を通じて見えてくることから、こうした機会が増えることで、女性の働く意欲も向上してくると思う。
松野 手ごたえはいろいろと感じている。展示会においても、現在はコンパニオンに頼ることなく、女性技術者がブースに立って、ワンストップで説明できるようにな ったのもその一つと感じている。

まずは、従業員との対話から

小林洋 最後に、会場に集まった参加者へメッセージがあればお願いしたい。
金山 当時、私も女性ワーキンググループのメンバーの一人として女性活躍やダイバーシティの推進に向けた提言を行ったが、それが実行に移されたことにとても喜びを感じた。
 やはり、従業員の声や悩みをしっかりと吸い上げ、現場は何に悩んでいるのか、どんな課題があるのか、しっかりと耳を傾けて、一つひとつ形にしていく積み重ねが大切だと思う。
松野 女性技術者の方は、これからは多方面で活躍できるチャンスが巡ってくると思うので、積極的にチャレンジしていただきたいと思う。ご健闘を心よりお祈りしている。
小林智 女性活躍推進の取り組みを通じて、女性従業員の責任感の強さや、しっかりしたビジョンを持っていることへの理解が深まった。
 スタートは従業員との対話であり、その上で気を付けなければいけないのは、働きやすい環境をつくることは良いことであるが、単に居心地の良い会社にしてしまっては生産性が落ちてしまう可能性がある。この線引きをしっかり行い、頑張ったことが成果や評価につながり、そして従業員一人ひとりの成長につながるよう、制度や教育の充実を図っていくことが大切であると考えている。

意思決定ボード登用のパイプラインを

小林洋 ご存じのように、女性活躍推進には三つのハードルがある。一つ目は「両立支援」。以前はM字カーブと言われ、女性社員が出産、子育ての時期に仕事と両立できずに辞めてしまった。この「M字」の落ち込みは現在ではほとんどなくなり、一つ目の仕事と子育てを両立し長く働き続けるというハードルは、そこそこクリアした。
 二つ目は、「キャリアアップ支援」。女性たちは長く働き続けているが能力を発揮できているだろうか、発揮した能力が本当に男性も女性も変わりなく評価されて、昇格に結びついているだろうかということ。
 三つ目は、「意思決定ボードへの登用」。部長クラスも組織意思決定の要職ではあるが、取締役あるいは執行役に生え抜きの女性を1人でも多く持ち上げていく必要がある、それは一朝一夕には実現できないので、パイプラインを詰めていくことが重要。女性人材も若いうちからバイネームでキャリアプランを作成し、係長、課長、部長、やがて役員になれるようなパイプラインをきっちりと、計画的に実行していって欲しい。そのような地に足のついた継続的な取り組みをお願いしたい。